金は有事の資産防衛に使えないかもしれない

最近、金の価格が急上昇しています。

金価格チャート20190705
金価格チャート(三菱マテリアル)

原因は米国債の金利低下でドルの価値が下がっているからとか、中国が金を爆買いしているからとか、いろいろあるようですが、世の中の先行きに不安を感じて金を買っている人もいるかもしれません。

将来インフレになった場合に備えて、金を持っておいた方がいいと言われることがあります。
インフレになったら、現金の価値は暴落して、お札は紙くずになる可能性があります。
でも金の現物なら、その価値はほぼ一定のはずだからです。
古代エジプトの黄金のマスクがありますが、金の価値は数千年以上の間、維持されていると考えてよさそうです。

ところが、金自体の価値は不変だとしても、自分の資産の防衛に使えるかどうかは、別問題だと思います。

日本には、金管理法  という法律があります。

金管理法
 (目的)
第一条 この法律は、対外決済の準備に充てるため政府が金を買い上げることとするとともに、金の取引の実態を調査することを目的とする。

政府が省令で定めた場合、金地金を政府が決めた価格で、政府に売却しなければならないという法律です。
この法律の元は貴金属管理法  という、昭和25年に制定された法律で、国産の金を原則全て政府が買い取るという法律です。

貴金属管理法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、貴金属を国際収支の改善その他の国民経済上最も有効な用途にあてるため、これを政府に集中するとともに、その取引及び使用を調整することを目的とする。

役人が好きな「調整」という単語が入っていますが、要するに、国内で生産された貴金属は全て政府が没収して、国民は自由に使ってはいけないという法律です。

これは戦後の混乱期の法律ですが、今でも何らかの有事の事態になった場合は、同様の法律を制定することは可能と思われます。
将来、もし日本がハイパーインフレの状態になった場合は、金は政府が真っ先に目をつける可能性があります。

ちなみに、憲法で「財産権」が規定されていますが、
「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」
となっているので、例えば円が暴落した時に、石油を輸入するためという理由で、個人所有の金を徴収することは可能ではないでしょうか。
その時の「正当な補償」が何になるかは分かりませんが。

これに関連して、自民党の改憲草案 にある、「緊急事態」の規定も気になります。

改憲草案緊急事態
自民党の改憲草案

何らかの理由で社会秩序が混乱した状態になって、円の価値が暴落した場合は、内閣の一存で国民が持っている貴金属を没収することもできそうです。

おそらく、この日本では、本当の有事になった場合は、国民が所有している貴金属を政府が強制的に徴収する法律ができそうな気がします。

後はその実効性ですが、金を購入した時に本人確認を求められた場合は、政府が所有者を把握することが可能と思われます。
(現在、金の購入時の本人確認は、200万円以上は必ず、それ以下は業者によるらしい)
政府が把握している金は、役人が徴収しに来るかもしれません。
政府が把握していない金は、見つからなければ没収は免れることができるかもしれませんが、いずれ現金化する時にバレる可能性があります。
金のまま隠し続ければ分からないかもしれませんが、それで意味があるのかどうか・・

金を海外に持っていくのも、最近はかなり厳しいようです。
海外で買って、海外で保管しておけばいいのでしょうか?

余談ですが、田中貴金属のサイト にこんな文章があります。

貴金属の接収(上)
終戦後間もない昭和20年(1945年)10月1日、GHQ(連合国軍総司令部)による貴金属の接収が始まりました。その時の様子を社内に残る当時の文書から引用すると・・・。
「前触れもなく突然30ミリ砲をつけた3台の戦車に乗り、日本の警部を先導させて米兵がピストルを手にもって進駐してきました」
「米兵は在庫を調べ封印した上、倉庫の鍵をもって帰ってしまい、全く驚きました」
「そのうち、トラックで(貴金属の在庫が)全部運ばれてしまい、今でも日銀本店の地下室に接収されているわけです」
当時は、ご多分に漏れず食料難の時代。当社の金庫の中には、接収された金や銀などの代わりにサツマイモが保管されていました。当然、仕事らしい仕事はなく、社員は会社に来ても、ただぶらぶらするだけ。機械や土地など会社の資産を切り売りしてやっと支払っている状態でした。
こうして、終戦直後から数年間にわたる、貴金属業界にとっても「暗黒の時代」が始まったのでした。

こんな事は永遠にないことを願いますが、いずれにせよ、この日本では、本当の有事になったら、金は資産防衛に使えないのではないでしょうか。