賃金が上がるとさらに負担が増える「ブラケット・クリープ」

庶民の生活は苦しくなる一方です・・

NEWSポストセブン(2023/11/6)
岸田首相と財務省が気付かぬうちに進めていた“実質的な所得増税” 給料上がっても手取りが減るカラクリ

「給料は一応上がっているはずなのに、生活はどんどん苦しくなる」
多くの国民の生活実感だろう。その一方で、所得税、消費税、法人税ともに税収はうなぎ上り。国の税収は2年間でざっと22兆円も増えた。岸田首相は税収増が「成長の成果」と言うが、なぜ、国民の懐はこんなに厳しいのだろうか。理由がある。
実は、岸田首相と財務省は物価高騰が続いたこの2年あまり、国民が気付かないように「所得税増税」を進めてきたのだ。

そのカラクリの肝は「インフレ(物価上昇)」にある。第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト・星野卓也氏が指摘する。
「所得税は、物価・賃金が上昇する時にはそれに合わせて課税最低限(各種控除など)や税率の段階が変わる基準となる所得額を引き上げないと実質的に増税になります。これをブラケット・クリープと呼びます。


 
給料(年収)500万円のサラリーマンA氏の所得税額は、40万円。税引き後の可処分所得(手取り)は460万円だ。
それが次の年に物価と賃金がともに10%上昇して給料が550万円にアップした場合、「課税最低限」が据え置かれると、所得税額は45万円となる。
給料は10%アップなのに、所得税は40万円から45万円に12.5%も増える。これがインフレ増税のカラクリで、増えた2.5%分(図の例では1万円)が増税額だ。

「ブラケット・クリープ」によって、賃金の上昇と物価の上昇が同じ場合、実質賃金が減ってしまうということです。

国民民主党もブラケット・クリープの対策が必要だと主張しています。


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以前は物価上昇に応じて所得税の調整をしていたようですが、1995年を最後にやめてしまったようです。

大和総研レポート・コラム(2023/7/14)
そろそろ所得税のインフレ調整検討を

日本はこれまで、ブラケット・クリープに対応するため、物価がある程度上昇する度に、所得税の課税最低限を引き上げてきた(図表参照)。最後のインフレ調整が行われたのは1995年で、その後、長らくデフレの時代が続いたため、課税最低限は据え置かれている。だが、近年の急ピッチな物価上昇により、1995 年からの累積の物価(CPI総合指数)上昇率は2022年時点で 6.7%に達した。そろそろインフレ調整を検討してもよい時期だろう。

 
試しに、会社員の月給の一例を計算してみました。

報酬の月額から、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)と所得税を引いた金額が、賃金の上昇によってどの程度変わるかです。(保険料と税額は全て令和5年度の額、住民税は面倒なので省略)


 
赤字の部分は、社会保険料と所得税の増加率が賃上げ率を上回る部分です。
それらによって、所得税控除後の金額の増加率が賃上げ率より低下しています。
つまり、賃金の上昇と物価の上昇が同じ場合は、実質賃金が減ってしまう場合があるということになります。
また、「ブラケット・クリープ」は、所得税だけでなく、社会保険料にも当てはまることが分かります。

社会保険料や所得税の増加率にかなりバラツキがある理由は、それらが段階的に変わるようになっているからです。
以下は、協会けんぽ(東京都)の健康保険・厚生年金保険の保険料額表と、給与所得の源泉徴収税額表です。


令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)


給与所得の源泉徴収税額表(令和5年分)

給与等の金額が、各段階の下限に近いか上限に近いかで、負担率が変わってくることになります。
また、特に健康保険と厚生年金保険は、等級が上がると保険料が結構上がるので要注意です。

 
ちなみに、今の消費者物価の上昇率は全体で3%位だそうですが、食料品に関しては感覚的に10%以上上がっている気がします。


2020年基準 消費者物価指数 東京都区部 2023年(令和5年)10月分(中旬速報値)

普段飲んでいるインスタントコーヒーは、去年の春頃は1袋400円位でしたが、今は500円位します。
冷凍食品は去年300円位だったのが今は400円以上になっていたりとか、値上がりが激しいです。

連合は来年の春闘で5%以上の賃上げを目指すようですが、エンゲル係数の高い世帯には全く不十分だと思います。

庶民の生活は苦しくなる一方です・・